Xを継ぐ者

                                                青島一高



星暦2000年

地球は異星人の侵略にさらされていた。
地球を遥かに上回る科学力と軍事力を持つ彼らによって瞬く間に地球の90%以
上が制圧されてしまった。
残された人類は地球解放軍を組織し果敢にも彼らに立ち向かうが
質、量共に地球側を上回る敵の攻撃に苦戦を強いられていた

これは人類存亡を賭けて戦う熱き勇者たちの物語である。


                        * * * * * *                         


登場人物紹介 敬称略(^_^;

I原    地球解放軍の作戦司令官で自らも優秀なパイロットでもある
N村    プロジェクト・ゼロの開発責任者 技術開発部長
F本    軍のパイロットでスカルー大隊隊長
S木    若手のエリートパイロット ICフォース(別名、鉄陸小隊)隊長
Y口    軍のチーフメカニック
K田    プロジェクト・ゼロの開発者の一人 優秀なコンピュータ技術者
M田    ベテランパイロットで若手パイロットの指南役でもある
M野    司令部のチーフオペレーター
K野    プロジェクト・ゼロの開発者の一人 設計担当
長官    その名の通りの地球解放軍長官


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「よう! おつかれ!」

薄暗い格納庫を歩くS木の肩をポンと叩いてI原は明るく声をかけた。

「あ、I原司令官」

「今回の戦闘もなんとかしのげましたね」

「ああ。そういえばおまえのX−68、FDDの調子が悪いって言ってたが大丈

夫だったようだな」

「ええ、Y口さんに応急措置を施してもらいましたから」

X−68とは地球解放軍の主力機動兵器である。

性能面では敵の機動兵器にとても及ばないが高い安定性とコントロールのしやす

さ、そしてパイロットの腕次第で本来の性能以上の力を引き出せる高いポテンシャ

ルが自慢の機体である。

「それよりF38地区が壊滅したって話聞いたんですけどほんとうですか?」

I原は神妙な面持ちで答える。

「・・・本当だ」

「戦況は悪くなる一方ですね。僕のX−68もあちこちガタがきてるし・・・」

I原はどう受け答えしたらいいのかわからず口をつぐんだ。

しばらく沈黙の時間が流れる。

「そう悪い話ばかりでもないぞ」

突然2人の背後から声がした。

「N村!いきなり後ろから声をかけるなって!」

「あーびっくりした!」

「で、悪い話ばかりじゃないって何かいいニュースでもあるのか」

ちょっとすねた顔でN村と同期のI原が聞く。

「ああ、喜べ。X−99が遂に完成したんだ」

「X−99ってX−ZEROの試作機の、ですか?」

S木が尋ねる。

「そうだ。まだまだ試作初号機が完成したばかりで先は長いがまずは第一段階

クリアってところだ」

「そうか完成間じかだと聞いてはいたが・・・やったなN村!」

I原がバンっとN村の背中を叩く。

X−ZEROとは地球解放軍が秘かに開発を進めている新型の機動兵器である。

現在の主力機であるX−68は優秀なパイロット達の腕でなんとか敵の機動兵器

とも戦えているが敵との性能差はいかんともしがたがった。

それに数年前にX−68の生産工場が敵に破壊されたこともあり修理用のパーツ

を確保することも難しい状況にあった。

そんな中、X−68に代わる次世代機としてX−ZEROの開発計画がスタート

した。「プロジェクト・ゼロ」と名付けられたその計画は機体設計をK野博士、

コンピュータシステムの開発担当をK田博士、そしてチューニング及び開発責任

者としてN村博士が担当していた。この3博士が中心となって開発が進められて

るX−ZEROは人類にとっての最後の希望である。一部異星人のテクノロジー

を取り入れたX−ZEROは完成すれば敵の機動兵器とも互角、いや互角以上に

戦えるものとして期待されている。


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I原とN村は中央指揮司令センターへ入っていく。

そこは地球解放軍本部基地の奥深くにあり本部基地各部署との連絡や戦闘指揮は

もちろん作戦の立案・運用などを行っており世界数ヶ所にある地球解放軍の基地

とも高速データ回線でリンクされているまさにこの基地の中枢部である。

薄暗く照明を落とされた部屋に何列ものブースが並び十数人のオペレーター達が

作業している。

その司令室のいちばん奥にいた初老の男が入ってきたI原に声をかけた。

「I原君まんまと敵にやられたよ」

「長官、一体どういう・・・?」

「先ほどの敵の攻撃は陽動だったんだよ。こちらに戦力を集中させている間に

手薄になったF24地区のDEN−KRA生産工場が敵に破壊された」

「くっ!」

「俺たちが敵の動きに気づいてF24地区へ向かったときにはもう遅かったんだ」

長官の側にいたパイロットスーツを着た男、F本が言う。

DEN−KRAとは軍が開発した無人機動兵器である。AIを搭載し無人機では

あるがX−68と共に地球を守ってきた頼もしい味方だ。

「と、いうことはDEN−KRAは2000年7月にロールアウトした147号

機で最後ってわけか・・・痛いなこれは」

「こうなったからには一刻も早くX−ZEROを完成させるしかない。N村博士

完成はいつ頃になりそうかね?」

長官が聞く。

「まだX−99が完成したばかりですからね。少しでも早く実戦投入できるよう

にX−ZEROの先行型を3機製作しますが少なくとも最低半年以上はかかりま

すね」

「先行型というのは?」

「簡単にいえば量産前の試作最終機です。システムチェックを最低限にしますの

で汎用性や安定性には若干不安がありますが性能的にはX−ZERO量産機と同

じものです」

「X−ZEROは我々人類にとって最後の希望だ。頼んだよ、博士」

N村の肩をポンとたたいて長官は指揮司令センターから出ていった。

それから数カ月後・・・


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「こちらスカルーリーダーF本だ。定時パトロール終了 これより帰投する」

F本の駆るX−68が哨戒飛行を終えて本部基地に戻ってきた。

「F本さん、おつかれさんです」

コクピットから降りたF本をY口が出迎えた。

「この前、修理したCRTCの調子はどうでした?」

「ああ、調子は良好、何も問題なかったよ」

「それよりX−68の新しいパワーアップユニット、まだ開発に着手できないの

か?」

「こっちもいろいろと忙しいもので・・・そういうことはN村博士に直接聞いて

くださいよ」

「ああ、わかったよ 博士は研究室だな」

研究室では内部構造むき出しの試作機X−99を相手にN村博士が奮闘していた。

「調子はどうです?博士」

「F本か。見ての通り苦戦してるよ」

博士の周りには大小さまざまなケーブルがのたくっていてさらにわけのわからな

い機械類がところせましと置いてあるため素人目にはなにがどうなってるのかわ

からない。

「博士、以前話していたX−68の新しいパワーアップユニットはどうなってま

す?」

「JUPITER−Xのことか?今はこいつにかかりっきりでとてもそっちにま

で手が回らんよ」

F本に顔も向けず作業をしながら博士が言う。

「X−ZEROもいいですけどもう少しX−68のことも考えてくださいよ」

「ふっ、お前は本当にX−68が好きだな」

「ええ。あれは本当にいい機体ですよ。扱いやすいしデザインもいい。パイロッ

トのスキルアップにあわせてX−68もそれに答えてくれるし」

「だが敵に対抗するためにはどう考えてもパワー不足だ」

F本の言葉をさえぎりN村が言う。

「それはそうですけど・・・」

そのとき、けたたましく警報が鳴り響いた。

「総員第一種戦闘配置! S級アラート!」

「なにぃ! ついさっきパトロールしてきたばかりだっていうのに」

そう言いながらF本が駆け出す。

中央指揮司令センターでは何人ものオペレーター達があわただしく動いていた。

「I原司令!これは一体!? パトロールではなにも異常はなかったのに」

中央指揮指令センターに入ってきたF本が言う。

「F本か、第3防衛ラインの長距離センサーが敵の姿を捉えた。センサーの有効

範囲ぎりぎりだからパトロールで見つからなかったのは無理もない。お前のせい

じゃないさ」

「I原司令!敵の数が増大しています。すでに500を超えています」

チーフオペレーターのM野が報告する。

「今までにない規模だな DEN−KRA部隊の戦闘配置をいそがせろ!」

I原がてきぱきと指示をとばす。

敵の機動兵器は真っ直ぐ地球解放軍の本部基地へ向かっていた。

「くそっ! 俺も出るぞ 60式turboを装備してスタンバイしといてくれ!」

そう言ってF本が司令室から飛び出す。

60式turboとはX−68のパワーアップユニットである。

かなりのパワーアップが期待できるが多少コントロールがピーキーになるのと数

が少ないため限られたX−68にしか装備できないという欠点がある。


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戦闘が始まった。

数で圧倒的に勝る敵は確実に地球解放軍の息の根を止めにかかっていた。

「南の第3ハブステーション壊滅!敵が基地内に侵入しました!」

「ICフォースを迎撃に向かわせろ!」

「だめです!敵との交戦中のためとても手が回らないそうです」

そのときM野オペレーターの通信機にどこからか通信が入った。

「こち・・・M・・だ・応答・・・」

ノイズがひどくて聞き取りにくい。

M野が感度を調整すると聞きなれた声が通信回線に飛び込んできた

「こちらM田だ応答してくれ 聞こえてるんだろ?」

「M田さん!」

「I原司令か? ひさしぶりだな、遠征からもどってきたと思ったらえらいこと

になってるな」

それはいままで遠征で基地を留守にしていたM田からの通信だった。

「ええ、今までにない大規模な攻撃です。それよりM田さん・・・戦えますか?」

「もちろんだ。そう思ってX−68で戻ってきたんだからな」

「では、ICフォースと合流してください」

「了解した。これより戦闘に参加する!」

基地内では侵入した敵との白兵戦が展開されていた。

「77電算室連絡不能!」

「セントラルドグマ壊滅!」

「第3層まで敵に制圧されました!」

中央指揮司令センターにはオペレーターたちの悲鳴のような報告が続いている。

「I原司令!敵は00ブロックへ向かっています」

00ブロックはX−ZEROの開発をしている重要区画である。

「やつら・・・ひょっとしてX−ZEROの存在に気づいたのか!?」

そのとき、ひときわ大きな爆発音が響いた。

司令室のコンソールがいくつか小爆発をおこして吹き飛んだ。

「メイン動力炉大破! 外部とのデータリンク消失!通信回線の40%がダウン

しました!」

「どうやらここまでのようだな」

いままで長官席でじっと戦況をみていた長官が口を開いた。

「I原君、全員に脱出命令をだしてくれ」

「長官!? しかし・・・それは」

「残念だが・・・もうどうにもならんよ。それにここでX−ZEROを破壊され

たら人類に未来はない。たとえこの基地を失ったとしてもX−ZEROや君たち

が生き残っていれば体勢を立て直して反撃にでることも不可能ではない。そうだ

ろう?」

「・・・わかりました」


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脱出命令を受け00ブロックでは着々と脱出の準備が進んでいた。

巨大戦闘兵器であるX−ZEROと試作機X−99はクロウラーのような巨大な

トレーラーに搭載され地下の非常脱出用トンネルから脱出する手筈になっていた。

脱出準備が進む中、コンピュータルームで黙々と作業をしている男がいた。

ものすごい早さのタッチタイピングでキーボードを叩いている。

「K田博士、まだこんなところにいたのか。早く脱出準備を!」

彼を見つけたN村博士がコンピュータルームへ入ってくる。

「もうちょっと待ってください・・・・よし!出来た」

スリットからデータディスクを取り出したK田博士はディスクをN村博士に放り

投げた。

「N村博士!これ使ってください!」

N村博士はパシッとディスクを受け取る。

「K田博士、これは!?」

「異星人の機動兵器用のコンピュータウィルスです。敵の化け物じみたスピード

の電子頭脳相手だと致命的なダメージは与えられませんが時間稼ぎぐらいにはな

るでしょう」

「いつの間にこんなものを・・・」

「なぁにX−ZEROのシステム開発の際にできた副産物ですよ」

「わかった、使わせてもらおう」

N村は近くのコンピュータにディスクをセットするとキーボードを叩き始めた。


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その頃、I原は脱出経路を確保するため自らX−68に乗り込み敵の猛攻を食い

止めていた。60式turboを装備した彼のX−68はあちこちにダメージを

受けながらも確実に敵の機動兵器を撃破していた。

「ふぅ。やはりX−68ではもう限界なのか・・・」

あちこちに警告灯やワーニングメッセージが表示されるX−68のコクピットで

彼は一人呟いた。

「そんなことはない!」

突然、I原機の近くにいた敵が爆発した。爆風の中からF本のX−68が現れる。

「I原司令!そんな弱気なこと言ってちゃだめですよ」

「F本!? ・・・すまんその通りだな」

ふと周りを見るといまにも襲いかからんと攻撃態勢をとっていた敵が機能を停止

したかのように止まっていた。

「!?敵の動きが・・・」

「どういうことだ?」

二人は通信モニター越しに顔を見合わせる。

そのとき、I原機のコクピットにN村から通信が入った。

「こちらN村だ。たったいまK田博士が開発した対異星人用のコンピュータウィ

ルスを使用した。これで少しは敵さんもおとなしくなるはずだ。いまのうちに敵

を叩け!」

「コンピュータウィルス!? そいつはありがたい」

「だが、致命的なダメージは与えられないそうだからあまり過信して敵にやられ

んじゃねえぞ」

「ふん、言われるまでもない!」

そう言ってI原は通信チャンネルを切り換える。

「コマンダーよりX−68全機へ。敵はK田博士の創ったコンピュータウィルス

の影響を受けて動きが鈍っている。反撃に出るぞ! X−68ユーザーの力を見

せてやれ!」

地球解放軍の反撃が始まった。


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地球人の反撃を受け敵はかなり数を減らしていた。だがそれも一時的でコンピュ

ータウィルスの効力を強力な電子頭脳のパワーに物を言わせ強引にねじ伏せ、敵

の機動兵器群は徐々に態勢を立て直しつつあった。

「N村、本当にやるのか?」

「ああ、すでに準備は出来ている。そりゃ俺だってこんなことやりたくはないが

長官の命令でもあるし他に良い手もない」

N村と通信を交わしていたI原の下にM野からの通信が入る。

「こちらM野です。生き残った全隊員の避難完了しました。X−68部隊も早く

脱出してください」

「・・・わかった。コマンダーよりX−68全機へ。全隊員の避難が完了した。

我々も脱出するぞ。全機全速で戦闘エリアより脱出せよ!」

徐々に態勢を立て直しつつある敵に対し地球解放軍は無人機DEN−KRAを全

機投入、敵を本部基地に押しとどめその隙にX−68部隊も脱出、そして外部か

ら基地の自爆装置を作動させDEN−KRA部隊と共に敵を葬り去る作戦に出よ

うとしていた。

I原は機体を傾け、敵と戦闘を繰り広げているDEN−KRAに敬礼しX−68

のエンジンを全開にして脱出コースをとった。

そして、大爆発が起こった。爆発はDEN−KRA部隊と敵をのみこみほとんど

の敵が消滅した。

I原は後ろを振り返り爆発を見ながらひと言呟いた。

「ありがとうデンクラ・・・」



        2000/06/25      Thankyou DENNOU-CLUB forever!